石綿による健康障害・胸膜中皮腫の画像所見
はじめに
胸膜中皮腫をはじめとするアスベスト関連肺胸膜病変が近年社会問題化している。
また、病理学での中皮腫の講義を受け石綿による中皮腫について調べてみたかった。
その上、予防と健康の講義で早期発見・早期診断は我々自身の健康を守るために重要であると学んだ。従って、予後不良とされる胸膜中皮腫の予後改善のためにはより早期の診断、早期治療が重要であることについて調べた。
選んだキーワード:「中皮腫」「早期診断」
石綿とは何か、その用途は
石綿は単一の鉱物名ではなく、アスペクト比(長さ/太さ)>3以上の繊維性ケイ酸塩からなる鉱物の総称であり、蛇紋石族のクリソタイルと角石族のクロシドライド、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトがある。石綿の特性として耐熱性・抗張性・化学的安定性に富み、断熱性・電気絶縁性も高いため、各種工業製品に使用されてきた。そのうちでも商業用にもっぱら使われてきたのは、クリソタイル、クロシドライトアモサイトである。クリソタイルは主に石綿セメント、スレート、シートパッキング、ブレーキライニング、クラッチ板、濾過材として多用された。クロシドライトは特に耐酸性が強いため、抗酸用紡績品、高圧管や吹きつけ用として建築物に使用された。アモサイトは弾力性がある長い繊維であるため、船の外壁の保温材や吹き付けようとして使用された。
石綿によって発生する健康障害
石綿暴露によって生じる疾患としては、肺病変としての石綿肺、肺がん、および胸膜疾患である。胸膜疾患には、悪性腫瘍である胸膜中皮腫と非悪性疾患である良性悪性疾患である良性石綿胸水、びまん性胸膜日厚、円形無気肺、および病態としての胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)がある。中皮腫は胸膜のほか、腹膜、心膜、精巣鞘膜に発生する。今回は胸膜中皮腫について書く。
胸膜中皮腫の画像診断
上で述べたように、中皮腫は胸膜、心膜、腹膜、精巣鞘膜などに生じる。その中でも胸膜が最も頻度が高い。80〜90%程度以上がアスベスト暴露によるとされており、低濃度暴露でも生じ、暴露後40年程度経て発症することが多いが、10年程度で発症するれいも
ある。予後は非常に悪く、上皮型胸膜中皮腫は12ヶ月、肉腫型は6ヶ月程度で、2年生存率が30%程度である。画像診断には、胸部X線写真、CTが従来から主に用いられ、最近ではMRI、そしてFD−PETも用いられる。今回は実際の臨床上最も大きな役割を果たしている胸部X線写真、CTを中心に述べる。胸膜中皮腫の胸部X線写真上の典型像は、片側性の胸水と結節状変化、腫瘤状変化、凸凹不整などを伴う片側性のびまん性胸膜肥厚像である。胸水を伴う症例が約80%ある。発見時に胸水を認めない症例も存在するが、そのほとんどで経過中に胸水を合併するといわれている。アスベスト暴露所見として、アスベスト低濃度暴露でも発生する胸膜プラークを伴う症例は多いが、高濃度暴露によるとされる石綿肺を伴う症例は20%程度と少ない。
胸膜中皮腫の典型的CT像は片側性胸水、広範なびまんの不整結節状胸膜肥厚像である。病変は肺を環状全周囲に取り巻き、葉間胸膜にも進展し、不整な葉間胸膜肥厚像や腫瘤を形成する。びまん性不整胸膜肥厚を呈する頻度が多いが、時には部分的に胸壁への高度浸潤を伴う腫瘤を形成するような症例もある。我が国の胸膜中皮腫の現状として、平成17年度厚生労働科学特別研究で行った検討を示す。まず平成15年の人口動態統計に登録された中皮腫死亡者878人を調査対象とした。そのうち遺族への調査への同意が得られ、関連医療機関からカルテ、X線写真などの医療情報の提供があったものについて検討した。このうち提供資料から胸膜中皮腫またはその疑いと診断され、なおかつ診断前の胸部CT画像が得られた117例をCT所見検討の対象とした。CT画像上の胸膜所見を以下の4段階に分けた。胸膜に全く不整を認めない「不整なし」、良性病変も十分考えられる程度の軽度の胸膜不整を認める「軽度不整」、画像上悪性を強くを疑う程度の胸膜不整を認める「高度不整」、腫瘤を形成している「腫瘤形成」である。この4段階の胸膜所見と、胸膜中皮腫のInternational Mesothelioma Interest Group(IMIG) によるTNM分類のT分類を対比した。その結果は不整を認めないか、良性病変も十分考えられる程度の軽度不整までが22例(18,8%)で、その他95例(81,2%)はCT上悪性を疑う高度の不整像を呈していた。当然のことではあるが、「不整なし」症例は前例T1で、「軽度不整」症例も1例を除く前例がT1症例で、胸膜不全症例が軽度の例ではT分類の進行尾が低かった。これに対し、「高度不整」や「腫瘤形成」などの悪性を強く疑う胸膜所見を有する症例は、「高度不整」ではその71,1%がT3以上症例で、「腫瘤形成」ではその91,2%がT3以上で、42,1%が手術不能なT4症例であり、進行した状態であった。このように、胸膜中皮腫をはじめとした胸膜悪性病変を疑う「高度不整」、「腫瘤形成」を呈する症例が合わせて95例(81,2%)であるのに対し、はっきりした悪性所見を呈さない「不整なし」から「軽度不整」像を呈する症例が合わせて22例(18,8%)であった。これらの「不整なし」から「軽度不整」症例はT1症例が大部分を占めていた。外科的切除などでより良好な予後が期待できる早期の胸膜中皮腫を診断するには、胸膜の軽度不整に留意し、不整の全くない症例も存在することを認識する必要があると考えられた。
中皮腫とは
中皮腫とは、胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜から発生する悪性腫瘍であり、石綿初回暴露からおおむね40年を経て発生する。胸膜発生の場合には通常壁側胸膜に発生する。1997年のヘルシンキクライテリアでは、その80%は石綿暴露によって発生すると報告されている。最近の調査では、日本の中皮腫でも74%の症例が職業性石綿暴露によって発生していうことが確認された。経気管支的に肺に吸引された石綿繊維が壁側胸膜に中皮腫を発生するメカニズムは、現在明らかになっていない。発生部位では胸膜原発が約80%と最も多く、次いで腹膜が約20%であり、心膜や精巣鞘膜の中皮腫はまれである。胸膜中皮腫の自覚症状としては息切れと胸痛が最も多く、次いで咳、発熱などである。画像所見では
胸水貯留例が80%以上で、腫瘍は肺を取り囲むようにびまん性に増殖する胸膜病変を呈する。そのため、胸膜直下に発生した肺がんとの鑑別が必要である。早期例では胸水貯留のみのこともあり、結核性胸膜炎や原因不明の胸膜炎として経過観察されている場合もあることが分かってきた。また、腹膜中皮腫の場合には初発症状として腹部膨満感が最も多く、次いで腹痛であり、画像上ではびまん性の腹膜肥厚像や腫瘤像が特徴的であるが、女性の場合には卵巣癌との鑑別が重要である。
中皮腫の病理学的診断
胸水は血性であることが多いが、がん性胸膜炎とは異なり細胞診による診断率はおおむね30%と低い。また、胸水中ヒアルロン酸値が10万ng/ml以上である場合には診断価値があると報告されているが、これより低値を示す場合も多い。そのため、確定診断には病理組織学的検査が必須である。特に胸鏡下胸膜生検による診断率は98%であると報告されている。組織型は大きく3型に分類される。がん腫に類似する上皮型が最も多く50%、肉腫型が最も少なく18%で両者の組織型が混じる二相性が32%と報告されている。典型的な二相性中皮腫は比較的診断が容易であるが、その他の2型については鑑別診断が重要である。
論文の内容とビデオの内容より
石綿における中皮腫は世間でとても問題となっている。現在でもアスベストの処理されていない建物がそのまま手付かずのまま放置されている映像がニュースで流れていた。人体に悪影響を及ぼす原因となることが判明しているから、そのまま放置せずに早く処理するべきである。併用療法をみてみると、ビノレルビン+ゲムシタビンの併用療法が効果があるとわかった。他の論文のなかに興味深いことが書かれてあった。欧米においてシスプラチン+ペメトレキセドの併用療法が効果があることがわかった。欧米で有意に良好な効果が認められているシスプラチンとペメトレキセドの併用療法を岡山労災病院アスベストブロックセンターでは平成17年8月から治験で行うことが可能となった。その結果では、5例中4例が奏効していることから、更なる臨床および延命効果が期待される。組織型別では、上皮型の予後が良かった。しかし、肉腫型では化学療法の効果も少なく、予後が最も悪かった。予後に関しては病期が最大の問題であり、T期症例では胸膜肺全摘出術他により、予後が悪かったが、W期例では治療の如何にかかわらず、5.4ヶ月と悪かった。また、患者側のperformance status(PS)の状況も治療に大きく関わることが明らかであると書かれてあった。我々将来医師となる者はこういった症例や知識を積極的に取り入れるべきである。また、予防と健康の講義を受け、早期治療・早期診断が重要であると学んだので、症状が重くなる前に早期に問題点に着目し、早い段階で病気を防いでいくことに目を向けるべきである。
まとめ
胸膜中皮腫の画像診断について、その早期診断を上で述べた。胸膜中皮腫の初期像はごく軽度の胸膜不整であり、ときには診断後に振り返って見直してみても画像上明らかな不整を認めないような症例も存在する。このような画像上全く不整がない症例は画像診断の限界ではあるが、予後不良とされる胸膜中皮腫の予後を向上させるためには、このような早期の段階で胸膜中皮腫を診断することが必要と考える。また、石綿関連疾患を疑う症例に遭遇した場合、石綿暴露に関する丁寧な聞き取り調査と、医学的所見の有無の確認として、胸部CTで胸膜プラークの存在確認を行うことや、肺内石綿小体の存在の確認や石綿小体の定量を考慮することも必要と考える。